人魚姫の涙

「とりあえず、ここを離れる」

「金は」

「少しだけど、ある」


何も考えずに飛び出してきた。

引き離されると思ったから。


どこへでもいい。

紗羅と2人でいられる場所なら、どこでも。

俺達の事を誰も知らない場所へ――。


「家は俺が準備する」


これからの事を考えていた時、和志が突然そう言った。

思いもしなかった申し出に、驚いて顔を上げる。

すると、目の前に座っていた和志が不敵に笑った。


「俺の家の別荘を貸してやる。フラフラしているとすぐに居場所がバレる。それに、たいした金もないんだろ」


そう言うや否や、何やら電話をしだした和志。

俺と紗羅は顔を見合わせて、その様子を見守った。


「あぁ、俺だ。あぁ。明日向かう――あぁ、そうだ。頼んだ」


和志は、それだけ言って電話を切った。

答えを待つ俺達は、息を飲んでその言葉の続きを待った。

そんな俺達に、和志は安心させるように僅かに微笑んだ。


「明日には生活できるようにしてある。しばらくは、そこにいろ」

「和志...…」

「何かあったら言え。力になる」


そう言って、不敵な笑みを見せた和志。

その言葉に、俺は深く頭を下げた。