人魚姫の涙


「成也...…何をするつもりなの?」


目を潤ませたおばさんが、不安気に私達を見つめる。

成也はしっかりと私を抱きしめて、開いたドアの前に立つ。

そして、2人の目を見てゆっくりと言葉を発した。


「俺達兄妹の事は忘れて」


悲しそうに微笑んだ成也はそう言った瞬間、私の腕を掴んで走り出した。


「成也!!」

「待ちなさい! 紗羅!」


後ろからはパパとおばさんの声が聞こえる。

それでも、成也は振り返らず私の腕を引いて走り続けた。


世界が崩壊していく。

今まで生きてきた偽りの世界が、剥がれ落ちていく。

残ったのは、私の手を握る、この手だけ。

成也の、温かな手だけ――。