「紗羅ちゃん、もしかして今日もホテルに泊まるの?」


出来上がった料理をテーブルに並べながら、母さんが紗羅の顔を覗き込む。


「うん。夜ご飯食べたら帰るよ」

「あら、そんなのキャンセルしちゃいなさい。うちの家に泊まっていきなさい」


まるで本当の母親のような口ぶりでそう言った母さんに、紗羅は驚いたように目を見開いた。

だけど次の瞬間、まるで花が咲く様に満面の笑みを浮かべて立ち上がった。


「え!? いいの!?」

「いいに決まってるじゃない。ここは紗羅ちゃんの家でもあるんだから」

「おばさん、ありがとう!」


キャッキャと嬉しそうに母さんに抱き着いて喜ぶ紗羅。

18年の空白の時間を感じさせないその様子に圧倒されて言葉を失ったが、直ぐに現状を把握して同じように慌てて立ち上がった。


「え!? 紗羅ここに泊まんの!?」

「そうよ。文句ないでしょ?  昔の紗羅ちゃんの家も、今じゃ他の人が住んでるんだから。それに、せっかく帰ってきたのにホテルなんて寂しいじゃない」

「それはっ……」


口ごもる俺を見て、少し不安そうに眉を垂らす紗羅。

ここに泊まる事を俺がよく思っていないと感じたのか、寂しそうに視線を僅かに伏せた。

まるで捨てられた子犬のようなその姿に、あ~! と思いながら髪をかき乱す。


「あ~~! いいよ! 泊まって行けよ、いくらでも!」

「本当!? ありがと成也!」


俺の言葉を聞いて、再び紗羅は俺の胸に飛び込んできた。

羽のように軽いその体を受け止めて、どうでもなれと心の中で思った。