人魚姫の涙


俺の言葉に紗羅が小さく息を飲んだ。


「自殺かどうかは分からない。結果、その事故はただの事故として処理された」

「でも、大悟さんはどうして自殺をしたの? 自分の子供も産まれているのに」


そう言って、不安気な顔で俺の方をチラリと見る紗羅。


そうだ。

何も得ていない茜さんとは違う。

おじさんとの間の子供も産まれていたけど、現に俺という大悟さんの血を引く子供も産まれている。

なのに、どうして。


「それは私達には分からない。茜の無理心中だったのか大悟も自殺を望んでいたのか……。それとも、本当に単なる事故だったのか」


苦しそうに話すおじさんが俯いたまま強く目を閉じた。

母さんの瞳からはポタポタと涙が落ち、床に水溜まりを作っていた。


愛に苦しんで去った者。

そして、残された者。

どちらが幸せなのか――。


「――…だったら、私達は?」

「――」

「一緒に産まれてきたのに、どうして別々に育てられたの? 兄妹としてではなく」


悲鳴の様な紗羅の声に、ぎゅっと目を閉じるおじさん。


「残された私達2人は残酷にも、まだお互いを求めていた。でも、2人にこんな事があったのに、一緒にいる事なんてできない。それに、私も海外に転勤になるかもしれないという話がでていた」

「――」

「それで桜と何度も話し合ったんだ――。俺の血を引く紗羅を、俺の娘を、自分に育てさせてほしいと」

「パパ...…」

「おかしい事を言っているのは分かっていた、でも...…どうしても――っ」


そう言って、声を詰まらせたおじさん。

ぎゅっと俺の手を握っていた紗羅の手が震えていた。