人魚姫の涙

聞きなれない女の子の大きな声が聞こえたと同時に、ものすごい勢いで体に何かが飛び込んできた。

なんの準備もしてなかった俺の体はバランスを崩して倒れ込みそうになったけど、寸での所で踏み止まった。


あまりにも突然の事でパニックを起こした俺は、狼狽えるだけで言葉が出ない。

慌てて自分の胸に飛び込んできた人物を見下ろすけれど、フワフワの栗色の髪に顔を覆われて人物の特定は出来なかった。


誰！？

っていうか、何事！？


どうしていいか分からずオロオロする俺の胸に構わずギュッと抱きついている、その人。

間違いなく女性だろうけど、一体誰なんだ。


「ちょっと！　誰！？　何！？」


パニックの頭のまま、その細い肩を掴んで自分から引き離そうとするが、女性はまるで子供のように俺の服を掴んで離してくれない。

いよいよ怖くなってきて、大声でリビングにいるだろう母親に助けを求めようとした、その時――。


「あらあら、ふふふ」


リビングから出てきた母さんが、僅かに驚いたように目を見開いた。

それでも、訳が分からず抱き着かれたままオロオロする俺を見て、可笑しそうに微笑んだ。