人魚姫の涙

「ねぇ、成也」

「ん?」

「今日の夜、成也の部屋に行っていい?」

「え? あぁ……別にいいけど。どした?」

「ふふ。秘密~!」

「え~」

「楽しみにしてて! 寝ちゃダメだからね」


一瞬垣間見えた寂しそうな顔を振り払うように、紗羅は無理に笑っているようにも見えた。

ただの思い込みかもしれないけど、僅かに違和感を覚える。


第一、俺の部屋には何回も来ているし、許可を取ってくるような性格じゃない。

そんな紗羅が改まって言うもんだから、なんだか不思議だった。

だけど、それを問わせないようにする雰囲気を紗羅から感じて、俺は何も言えなかった。




――この日は、波も穏やかで。

月明かりに照らされた海がキラキラと輝いていた。


でも、その奥に潜む漆黒の闇。

深い深い海の底。

光の届かない世界。



――…人魚姫の帰る場所。