人魚姫の涙

「ねぇ、成也」


しばらくそうしていた紗羅が、ゆっくりと顔を上げた。

どこか真剣な顔を見て、首を傾げる。


「運命って信じる?」

「運命?」

「そう。産まれた時から決まっている事。神様が決めた事」


そう言って、大きな海を見つめる紗羅。

その瞳はどこか寂しげで、手を離したら消えてしまいそうだった。

だから、俺はギュッとその手を握って真っ直ぐに答える。


「俺は信じない。自分の人生が誰かに決められているなんて思いたくない」


努力して勝ち取ったモノも、初めから決められていたなんて嫌だ。

全て自分で選んできた道が、もう決まっていた事だなんて、そんな人生楽しくない。


だから、神様なんて信じない。

どれだけ願っても、父親を与えてはくれなかったから。