人魚姫の涙

無我夢中で自転車を漕いだからか、あっという間に家に着いた。

家の窓からは温かい光が漏れてる。

玄関に近づくと、出迎えるようにパッと電気が点いた。


モヤモヤとした感情が胸の奥で蠢いていて、釈然としない。

さっき見たあの女性は一体何者なんだろうか。

まるで陽炎の様に消えてしまったからか、あの刹那の瞬間が幻だったんじゃないだろうかと思ってしまう。


いや。

きっと疲れているんだ。

そう自分に言い聞かせながら、カチャカチャと沢山ある鍵の中から家の鍵を探す。

今日はテスト勉強もせずに早く寝よう。

明後日はバイトもあるし、ゼミの課題だってある。

やる事は尽きないと溜息を吐きながら、いつもより重たく感じる玄関扉を開けた。


「ただいま~」


気怠い声を上げながら、キーケースを玄関の定位置に放り投げる。

それと同時にリビングの方からパタパタと軽い足音が響いてきた。

徐々に近づいてくる足音に、俯いていた顔を持ち上げた。

その時――。



「成也っ!!!!」