人魚姫の涙


「こんなに人が集まったのも、こんな歓声も聞いた事ない」

「そうなの?」

「そうだよ。だから、とっても嬉しい。沢山の人にあの衣装を見てもらえて」


優しい表情で舞台を見つめる塩谷さんの眼差しは、おばさんが成也を見る時の目に似ている。

子供を見る親の暖かい目。

きっと、あの衣装は塩谷さんにとって子供みたいなモノだったのかな。


「それでは、次に絶世の美女。塚元紗羅ちゃんです」


歓声の鳴り止まない中、司会の人が私の名前を呼んだ。


「紗羅ちゃん。その子の事、よろしくね」

「え?」

「そのドレスは、私にとって子供みたいなもんだからさ。初めての晴れ舞台だから」


その言葉に、さっき私が感じていたことは間違いではなかったのだと思った。

やっぱり塩谷さんにとっては、作った衣装全てが子供みたいなもんなんだ。


「うん! 任せといて!」


薄っすらと涙を浮かべる塩谷さんに、ニッコリと微笑みかけた。

そして、大きく一歩を踏み出して光の中に飛び込んだ。




だけどその瞬間、歓声が止んだ。