人魚姫の涙


「先に行ってる」


そう囁いた成也は、本当に王子様みたいだった。

僅かに頬が赤くなる。

コクンと頷いた私に、成也は優しく微笑んだ。


「それでは、我が大学のプリンス。桐谷成也くんです!」


司会の人が興奮気味にそう言った瞬間、私の頬を撫でてた成也の手が離れる。

光の中に歩いていく成也の背中を見つめる。

ライトが当たった瞬間、一気に衣装がキラキラと輝きだして、それと同時に会場が爆発したみたいに歓声が広がった。

風にローブがなびいて、まるで映画のワンシーンみたいだった。


「やっぱり、凄いね」

「え?」

「成也くんの人気」

「うん」

「あの衣装も、成也くんに着てもらえて幸せよ」


横で目をキラキラさせて塩谷さんが成也の後ろ姿を見て、そう呟いた。

その眼差しは真っ直ぐで、とても素敵だと思った。