人魚姫の涙

俺の存在に気づく事もなく歌い続ける女性。

まるでその空間だけ切り取ったかのようで、声を掛ける事も忘れて見惚れていた。


聞こえてくる声が海風に乗って届く。

英語?

いや……違う、なんだ?

どこの国の言葉だ。


真っ直ぐ前を向いたまま、どこか切なそうに歌う彼女。

真っ赤に染まる夕日の中、今にも消えてしまいそうなほど儚く見えた。


「人魚……姫?」


意図せず思わずそう囁くと、俺の声に気付いた女性はハッとこっちを向いた。

それと同時に、混じり合う視線。


その瞬間、時が止まった。


視線の先に見えたその姿が、あまりにも現実離れしていて。

真っ白な陶器のような肌に、夕日を浴びて金色に輝く髪が線を引いている。

そして遠くからでも分かる、真っ青な瞳。

クッと顎を引いて、俺を見透かすように見つめている。