人魚姫の涙

懐かしい日々を思い出しながら向かったのは、浜から少し離れた堤防。

いつもの所に自転車を停めて鍵をかける。

だけどそんな時、不意に耳に届いたものに手の動きを止めた。


「――…sempre――piu…――…」


波の音に混ざって聞こえたのは、女の人の声。

途切れ途切れにだけど、確かに聞こえる。


誰かいるのか?

そう思い、チラリと堤防を覗き込んだ、その時――。


「――っ」


一瞬息が止まった。

視線の先には堤防に腰かけて、歌っている女の人がいた。


横顔しか見えないけど、長い栗色のふわふわの髪が腰のあたりまで綺麗に伸びている。

そこから覗く、小さくて真っ白な肌。

白いワンピースを着ていて、裾が長く足先まで隠れている。

時折吹く海風が、その髪や服を美しくなびかせている。

夕日を浴びるその姿は、あまりにも綺麗で目を奪われた。