人魚姫の涙





「あっち~」


ミーンミーンと夏らしい虫の声を聞きながら、小走りで裏門へと急ぐ。

うっすらと遠くに見える真っ白のワンピースを見つけて頬が上がる。


「紗羅!」


後ろ姿も愛おしくて、早く笑顔が見たくて、待ちきれずに遠くから紗羅を呼んだ。

すると、ピクリと犬の様に反応した紗羅は、長い髪をなびかせてこちらに振り返った。


「成也!」


眩しいくらいの笑顔を向けて、ニッコリと微笑んだその姿に駆ける足が速くなる。


「おかえりなさい!」

「ただいま」


トコトコと小走りでこっちに走ってきた紗羅が、勢いに任せて俺の胸に飛び込んできた。

髪から香る甘い香りに、俺の理性が一瞬ゆるむ。