彼女の自傷行為に気が付いたのは、クラス替えのすぐ後だ。
騒がしい笑い声。その中に彼女はいた。
うるさいなぁ、なんて少し苛立ちを覚えた私は、
チラリと視線を彼女に向ける。
…一瞬の事だった。
大きく手を広げ欠伸をする彼女の左手の袖が少し下へずれる。
思わず自分の目を疑う。
無数についた赤い線。青痣も見える。
彼女は慌てたように腕を膝へ振り下ろした。
衝撃のあまり、しばらく体が固まる。
…落ち着きを取り戻してから、先程の出来事について思いをめぐらせた。
彼女の事はほとんど知らなかったが、その傷が、彼女のイメージとはかけ離れたものだということは
わかる。一瞬ではあったが、すぐにわかった。
あの傷は間違いなく彼女自身がつけたものだ。
…私は、彼女の裏の顔を知ってしまった。
衝撃が大きかったせいだろうか。
その傷を見た日から、私の頭から
彼女が離れなくなってしまった。

_そこまではまだ、よかったのだが。

彼女を目で追い観察しているうちに、
私は彼女の時折見せるおぞましい程に冷酷な表情や、
さすさすと愛おしそうに手首を撫でる仕草一つ一つに
夢中になってしまった。
彼女の事をもっと知りたい。彼女の真っ黒な部分を
もっともっと見たい。
気付けば私は、行動にうつしてしまう程に
彼女の魅力に取り憑かれていた。
彼女の住所や人間関係、行き先やSNS、
全てを監視した。その過程で、彼女の自傷行為の原因が母親による虐待であるという事も判明した。
物凄く、興味がある。
そんな時、私の耳に彼女の家の近所に
新しい住宅街が建設されたという話が飛び込んできた。
私は今、母と小さなアパートで二人暮し。
母には引越し願望がある。
…迷いはなかった。
それからというもの、彼女の家から叫び声が聞こえる度に窓を開けて
彼女の悲鳴を聞いていた。