と書かれていた。途中からインクが途切れているにも関わらず、紙には文字を書き続けた跡が残っていた。
そしてそのすぐ側には、
万年筆が転がっている。それを拾い上げると、
持ち手に亀裂が入っている。
それを見ていると、胸が締め付けられた。
彼女は何も悪くない。
悪いのは、殺されるような事をした母親だ。
なのに優しい彼女は今、全てを自分の責任だと感じ
、思い詰めている。
彼女を追い詰めたこの死体に底知れぬ怒りを感じ、足で顔を蹴ろうとした。
その時。
「ちょっと雪乃〜!!」
その声に慌てて振り返ると、先程まで
自我を失ったようだった彼女が立っていた。
「ママはお昼寝中なんだから、起こさないであげて〜!!」
そう言うと彼女はこちらまで小走りし、
私の横にしゃがみ込んで
大切そうに、愛おしそうに死体の上半身を抱き締めた。
それを見て私は、彼女が他の物に愛情を向けている事に強い嫉妬を覚える。
……やめて、やめてよ。
「梨花、ねぇ、梨花ってば!!」
彼女の肩を大きく揺らすが、彼女は私の方を
見向きもせず、ただずっと死体を見つめている。
……やめて、やめて、やめてやめてやめて!!!
「梨花!!!」
彼女を無理矢理死体から引き離す。
引き離された彼女は大粒の涙を零しながら、
「愛が、わたしのあいがはなれてく!!!」
と死体に必死で縋りつこうとする。
……やめて、だめ、やめてやめてやめてやめて!!!こんなの彼女じゃない!!!
ドカッという鈍い音と共に、彼女が床に倒れる。
手に持ったミニテーブルを見つめながら、私は息を切らせて倒れた彼女を見下ろした。

「ごめんね…でも愛してるからこそなの、ゆるして…」

そう呟いた私は、意識の無い彼女の頬を撫でると
彼女をベッドへと寝かせた。