恋する耳たぶ


すぐそばで聞こえた声に、私は居心地のいい腕の中で顔を上げる。

間近で見下ろす、匡さんの真面目な表情。

あれ?おかしいな。
さっきの声、匡さんの声に似ていたような……

「…………え?」

あの声って…
というか、あのセリフって……?

「指輪も、花束も、用意してないけど……でも、本気なんだ」

え?…待って、ちょっと待って。

さっきのって…………

「結婚してほしい」

私の妄想じゃ、なかったのぉぉ~???!!!

「今すぐ返事して欲しいってわけじゃないから。俺がそういう気持ちでいるってこと、伝えたかっただけで……」

目の前の顔がみるみるうちに赤くなり、匡さんは眼鏡のフレームを押し上げながら、すっと私から視線を外した。

「…………いきなり……ごめん」

抱きしめていた腕が解かれ、私達の間にひんやりした空気が流れ込む。