「あーもー。はいはい、何ですかー」
画面の表示を見もしないでスマホを掴み、断りの返事を打とうとして固まった。

『こんばんは』
『久しぶり』
『もう寝ちゃってる?』

その下に、ぽん、と送られて来たばかりのメッセージが表示される。

『今週末、どうにか休み取れそうなんだけど。紬未ちゃんは、予定空いてる?』

“紬未ちゃん”

由依じゃない呼び方を二度見して、そうっと画面の上の方を確認すると、そこにはやっぱり、由依じゃない人の名前が表示されていた。

“匡さん”

嬉しくって、自然と顔が笑ってしまう。

すぐに返さなきゃ。
匡さんは今、スマホを見ているんだから。

なんて返したらいい?

『空いてます!』

そう入れて、違う、と全部消して。

『休みです』

そう入れて、いやいや、とまた消した。

今の私じゃ、きっと思い浮かぶのは、前のめりな返事ばっかりだろうな。
大きく深呼吸をして、心を落ち着ける。

ここは、ごくごくシンプルに。
はい、と返事を送ることにしよう。

送信のボタンを指先で、ちょいとつつくと、すぐにスマホが震え出した。
メッセージじゃなく、着信の表示。