将来の夢?なんだっけ……
ってか…今幸せだし…なんでもいいよ…ふふ…
男と適当に遊んで……あれ…眠くなってきた…
やば…気持ち悪…



爆音のサイケデリックが流れているクラブ内で
朦朧とした意識の中、アユは千鳥足でトイレに向かった。
もう何を飲んだかも覚えていない。
知らない男とキスしたところまでは覚えてる。

「オエッ…飲みすぎた…」

そんなアユに、一緒に来ていた親友のナナが駆け寄る。

「アユ〜!やっと見つけた!!!てか大丈夫?顔色やばぁwwww
てかほら!アユの好きなユウヤさん次DJだよ!!」







私はアユ17歳。今は超楽しいクラブにいる。
服飾系の高校に入って1年で辞めた。女ばっかでつまんなかったし。
ママはどうしても高校を卒業してほしいらしくて、お金は無いのに校則のない通信制の高校に通わせてくれた。
そんな親のありがたみも分からず今日もクラブで男漁りしてる自分ほんとサイテー(笑)



「ユウヤさん!今日も選曲サイコーだった!!」

「おっ!!アユおつかれ〜!今日もありがとう。飲んでる?乾杯しようよ!」

DJ ユウヤとハグを交わしたあと、すぐにユウヤはテキーラを持ってきた。
既に吐くまで飲んでいたけど、推しのDJが奢ってくれたお酒を飲まない訳にはいかない。

「乾杯!!!」

ユウヤとテキーラショットを一気に飲んだ。
爆音が頭に響く。でも超気持ちいい。

このクラブは治安が悪いことで有名だ。トイレでセックスしている男女は当たり前。何が入ってたか分からない空のパケがあちこちに落ちている。DJもみんな何かをキメている。未成年も沢山いる。もちろん17歳がクラブにいることも、お酒を飲むことも、法は許さない。

そんなこと分かってる。
だけど、最高に楽しい空間、自分を忘れられる空間、仲間がいる空間、過去を気にしない空間。
アユとナナは、毎週土曜日はこのクラブの常連で、DJとも仲が良く、スタッフをすることもあるくらい大好きな場所だった。


午前4時30分。
クラブも終わりに近づく頃、眠くなったアユはナナとクラブ近くのファミレスに向かった。
このファミレスはクラブ終わりのDJやお客さんがいつも休みに集まる場所。店員さんや店長とも皆仲がいい。
クラブが終わると案の定、喫煙席は満席になった。

「満席になる前に来て正解!アユ、今日もマジ飲んだね!超楽しかった!」

ナナと余韻に浸るように、記憶の所々が抜け落ちている今日のクラブを振り返る
その時、

「おーつーかーれー!!!」

アユは後ろから肩を叩かれた。
振り返るといつもの顔、DJの皆が来た。
DJのコウキ、シホ、リョウガ、推しのユウヤ。その他DJ5.6人。仲がいいスタッフのアヤ、カスミ、タイセイその他3.4人。いつもの顔だ。

「アユ!来週スタッフできる?あっ、てかキスしてたの新しい男?彼氏出来たなら言えよ!てか……」

まだ酒の抜けてないDJのコウキがヘラヘラしながら質問攻めにしてくる。

「誰とキスしたんだろ…酔ってて知らない男としちゃった!あはは!!」

そんないつも通りの下衆な会話で盛り上がる。

「ねえアユ!そういえば、あんたのこと可愛って言ってた人いたよ!だれだっけ…」

シホが言った。シホはDJ兼バーテンダーだ。客のお酒を作りながら1番客と話をしている。

「アユは可愛いけど、性格がなぁ…(笑)」
「わかる、アユは自由すぎて男を不幸にする」

ナナがとコウキが突っ込む。
ちなみにこの2人はセフレだ。コウキはナナに恋してるけど、ナナは知らないフリをしている。

「俺もアユは可愛いと思う。てかユウヤ!こっち来い!」


少し遠くの方から声がした。
あぁ、いつもクラブにいる人だ。
クラブスタッフになると、ビラに写真と名前が乗るから、何度もスタッフ経験のあるアユは割と顔は広かった。


「おつかれレオ〜!なに〜???」

DJのユウヤがレオのいるテーブルに行く。

(名前レオって言うんだ…よく見る顔だけど名前知らなかったなぁ…まぁどうでもいいけど)

アユがそんなことを考えていたときスタッフのカスミは嫉妬の目でアユを見ていた。レオのことが好きな女だ。
アユはその目を少し気にしつつも、レオのいるテーブルを見ていた。
レオはどこか不思議なオーラを放っていた。
アユとレオはよくクラブにいるにも関わらず、会話をしたことも、挨拶をしたことも無かった。

その後いつも通り解散し、皆それぞれ帰って行った。




アユはナナといつも通りの1週間を過ごした。
学校と遊びの繰り返しだ。男を誘えば奢りでご飯、ドライブに連れて行ってもらえるからお金には困らない。たまにセックスする。アユとナナは、顔は確かに可愛かったから男もうちらがビッチだと分かっててセックスした。
ナナとアユのいつも通りの毎日だ。
今週の土曜日はクラブスタッフを頼まれてるからSNSで宣伝したり、遊んだ男を甘い声で誘う。完璧だ。

こうして1週間を過ごし土曜日になった。
クラブスタッフになってるアユは開場の1時間前にミーティングに行った。
クラブ内でミーティングが始まった。

「今日も気合い入れて頑張ろう!DJ、スタッフ、バーテン、セキュリティ!よろしくな!!!」

そのクラブで立場が1番上のDJ ヒョウガが仕切る。
DJは音を流し音響の最終チェック。スタッフは掃除したり、その他の仕事の準備をする。セキュリティは、ガタイのいい外国とのハーフの男が2人。マジで見た目が怖い人。揉め事や危険行為を見つけ、対処する仕事だ。準備はないから掃除を手伝ってくれる。実は優しい。バーテンはビールサーバーを入れたりお酒の準備をする。

あっという間に1時間が過ぎる。

午後10時。
開場した。人気のイベントだったこともあり、すぐにクラブ内は人でいっぱいになった。

「アユ〜!きたよ!!!」

ナナが来た。

「アユ、お酒飲もっ!あ、あれレオくんじゃない?やっぱりいつもいるね!」

ソファが置いてある方を見ると、不思議なオーラを放つレオがいた。目つきは悪く、音楽に乗ってる訳でもない。いつものツレといつもの場所で酒を飲んでいた。

「ほんとだ、気付かなかった。」

アユは気にすることなくナナと酒を飲んだ。

着々と仕事をこなし、0時を回った。
クラブが1番盛り上がる頃だ。

熱気と酔いでフラフラしたアユは、無意識にレオを目で追っていた。
見た目は確かにクールでかっこいいけど、話したこともないし、別に恋愛感情はなかった。
でも、先週のクラブ終わりのファミレスで可愛いと言われたことは素直に嬉しかった。


その時、レオと目が合った。
そりゃアユが目で追ってたもん、いつか目は合うよね(笑)
レオが近づいてきた。

「アユ、今日も終わったらファミレス行くの?」

爆音の中、アユの顔にくっつきそうなくらいレオが顔を近づけて聞いてきた。

「うん。今日はスタッフだから、最後にミーティングしてからDJのみんなと行くよ。」

そう言ったアユは何故かすこし緊張していた。

「そっか。俺もツレと行くよ。」

初めてレオと話した。

どうでもいい内容だったけどね。


午前4時半、お客さんも帰っていき
クラブを閉めた後、掃除をしてからミーティングをした。

みんな帰る準備をしている時DJのツカサが話しかけてきた。たまに話すくらいの関係だ。そしてこのクラブDJの中で1位、2位を争うくらい女子に人気のDJだ。

「おつかれアユ。この後どうするの?」

「お疲れ様ツカサくん!ファミレスいくよ〜!あっでもお寿司食べたい気分かも(笑)」

「いいね寿司。今度行こうか!お財布は置いてきてね、俺が奢る」

「え〜マジ!?ほんとに連れてってよね!回らないお寿司だからね!!」

「当たり前じゃん、じゃあLINE追加していい?」

「いいよ、はい!これアユのQRコード。読み取って!」

「JKのLINEゲットー!!!」

ツカサは大声で言った。

「ツカサうっせーよ!キモい!」

「ツカサ〜アユには手出すなよ!ギャハハ!」

周りにいたDJ達からは、冷やかしにも聞える声がした。
あまり話したことはなかったツカサだけど、お互い酔いが残っていたからノリで話せた。
ツカサは女子に人気なだけあって、女の扱いもうまかった。裏でドラッグを捌いているらしく、お金もあった。



そのあと、DJのみんなといつものファミレスに向かった。
ファミレスに着くと、既にクラブ帰りの客で喫煙席はいっぱいだった。
丁度入れ違いに帰って行った客がいたテーブルに座る。レオはすぐに目に入った。喫煙席の角のテーブルにいつものツレといた。

「ふぅー!!!!今日も疲れたね〜!!あれ?シホさんナナ知らない?」

アユはDJのシホに聞いた。

「ナナ、4時前にはコウキとホテルに帰ってったよ。アユに言わずに帰るなんて相当酔ってたんだねナナ。店長〜あたし卵雑炊!!!」

注文をしながらシホは言った。


ナナの奴、後で覚えとけよ。と思いながらも、ナナがいないとやっぱり寂しかった。

その後も温かいコーヒーを飲みながらクラブで疲れた体を休ませていると、またツカサが小声で話しかけてきた。

「俺さ、アユタイプなんだよね。遊びとかじゃなくてリアルに。だから今度本当に遊ぼうよ」

上目遣いで言われ、反応に困った。でも奢ってくれて楽しく過ごせるならなんでもよかった。

「ほんとに〜??じゃあ遊んじゃおっかな。」

「今日帰ったらLINEしていい?」

「うん。いいよ。」

他にも色んな会話をした。
この1日でツカサとすごく距離が近くなり仲良くなった。

レオとは話さなかった。
何度か目は合ったけど、お互い話すことは無かった。
何故かアユは少し残念だった。







また1週間が始まった。
ツカサとは、クラブで仲良くなった日から連絡をとっていた。
来週はツカサがオーガナイザーのクラブイベントだ。
予想はしてたけど、やっぱり誘われた。
別に予定もなかったから、アユに何も言わずコウキとホテルに帰ったことを鬼謝りしてきたナナと行く約束をした。

ナナはツカサとアユの関係を気にしていた。

「アユ…ツカサくんとどうなの?あの人いい噂聞かないじゃん…あんまり仲良くしない方がいいよ…」

ナナは心配していた。

「大丈夫だよ。別に好きにならないし。特定の男もいないしさ、ナナいつも人生楽しんだもん勝ちって言うじゃん。楽しまなきゃ…ね?それよりコウキとどうなの?ねえねえ〜」

アユは自分の話をするのは好きではなかった。
中学時代にいじめられた経験から、何事からも逃げるように生きていたアユは、何事も中途半端で、人生どーでもいいと思っていた。
だから自分が好きではなかった。
メイクをバッチリした顔は、自分でも可愛いと思っていた。スタイルも悪くない。見た目が良ければ男も寄ってくる。自由でサバサバした性格で、女友達は少なかったけど、顔は広く、アユと仲良くなりたいと思っている女の子も沢山いた。






土曜日になった。今日はツカサのイベントだ。
ツカサに連絡をして、午後11時。ナナと一緒にクラブへ向かった。


「アユ!!!来てくれたんだね!!!よかった。乾杯しよう!」

クラブに到着してすぐ、ツカサがフロントまで迎えに来た。

ナナは「コウキのところに行ってくる」と、ひとこと言うとすぐにコウキの元へ行ってしまった。

1人になったアユはツカサに、DJが待機できるクラブの裏に連れていかれた。
この場所は通称VIPと呼ばれていて、ゲストやDJ、スタッフしか入れない場所だった。
DJと仲がいいアユは普通に入れてもらえていた。

ソファに座ったアユは、早速ツカサにテキーラを貰う。ショットじゃなくて、紙コップで。

「ツカサくん、それはないよ〜!!テキーラこの量とかヤバいって!死ぬよ!?」

「じゃあ俺も一緒に飲む!それでいい?」


ひとつの紙コップに並々入ったテキーラを仲良く2人で飲んだ。