それでも最初のうちは、

「お母さまはどこ?」

などと、尋ねることもあったが、そのうちお母さんのことは、全く聞かなくなった。

ディアナは一人、洗面所の鏡に自分の顔を映して、わたしはお母さんに似ているのかしら、と考えた。




 カヤデルの国では、子供の教育はその親や保護者に任されていて、親が経済的に豊かな家の子は家に家庭教師を呼んで勉強したが、ほとんどの子は、五歳くらいになると、家の近所にある、勉強を教えてくれる養師と呼ばれる人の家に集まって、十人程のグループで勉強を教わった。

ディアナが五歳になったとき、おばあさんは新聞に広告を出して、ディアナの先生を探した。

広告を見てやってきた、二十人程の人たち全員とディアナたちは話をした。

ディアナは、きれいなうす水色の服を着て、少し悲しそうな様子をした黒い髪の若い女の人が好きだったけれど、おばあさんが良いと思ったのは、退屈している牛のような目をした、色が白くて薄茶色の髪の中年の男の人だった。

結局ディアナは、その牛の目の先生と、毎日朝食が済むと夕方のお茶の時間まで勉強した。

牛の目の先生の名前はランディ先生と言った。勉強は、まずこの国の古語から始まった。古語は、その人の持つ力を引き出すと言われていたが、今では、古語はすたれてしまっていて、キネビスではほとんど学ぶ子供はいなかった。しかし、ディアナのおばあさんは昔風の勉強の仕方が一番だと思っていたので、ディアナは古語をみっちりと仕込まれた。

キネビスの古語は、今、キネビスで使われている言語とは、ほとんど何も関係がなく、全く違うので、何もかも一から習得しなければならなかった。文字は三千字近くあり、それだけでも覚えるのが大変なのに、その上、その文字を使った単語を一つ一つ覚えていかなければならないのだ。

ディアナは来る日も来る日の文字とつづり字の練習に明け暮れた。文字を克服すると、それからは実践だった。

今では、キネビスで、古語を勉強する子供は少なかったが、年寄りの中には古語が話せる者もいたので、ディアナは、ディアナのおばあさんと同じくらいに年を取った、小さなおばあさんたちを相手に、古語の会話の練習をした。