「ねえ、おばあさまは何才なの?ノアの箱舟に乗ったの?それとも普通のおばあさんくらいのお年寄りなの?」

「そうだねぇ、コルシカにいたころのボナパルト(*ナポレオン・ボナパルト(1769~1821フランスの軍人、皇帝)はよくやってきたよ。強力な眠気ざましのお茶をいつもほしがったね。」

おばあさんは笑いながら答えた。


 おばあさんの家は、キネビスの町外れにあった。
この辺の家はみなそうだったが、おばあさんの家も、灰色がかったクリーム色のルーネ石を積み上げて作ってあった。そして、近隣の家々より、だいぶ大きくてどっしりとした家だった。

キネビスの家ではよく見られる事だったが、おばあさんの家にもよく手入れされた、美しい庭があった。

おばあさんの庭はとても大きかったので、庭師のベトリスが時々通って来ていた。

季節ごとにたくさんの花が咲き乱れる庭では、いつも何人かの人々が、いくつかある東屋(あずまや)で、おばあさんの入れたお茶を飲んでいた。

その庭の一角で、おばあさんはたくさんの葉っぱを育てていた。

おばあさんは、この葉っぱの庭だけはベトリスにさわらせず、自分だけで世話をした。つんだ葉っぱは大切に乾かした。

「これは、人を幸せにする葉っぱなんだよ。」

乾燥した葉っぱをいくつかの束にまとめて天井からぶら下げながら、おばあさんはうれしそうにほくほくとした調子で言った。

たくさんの葉っぱが取れた日には、おばあさんはいつもうれしそうだった。

色々な人の話を聞き、庭で育てた葉っぱを使って、その人に合わせたお茶を作り、色々な病気を治してあげるのが、おばあさんの仕事だった。おばあさんの様な仕事ができるのは、特別な力のある人に限られていた。力のない人が、その葉っぱを使ってお茶を作っても、ただのお茶を飲んでいるのと同じで病気は治らない。おばあさんのお茶は薬の様なもので、とてもよく効くと評判だったので、遠くからさまざまな病に苦しむ人々がやって来た。

「コルシカのナポレオン・ボナパルトにお茶を作ってあげたなんて……おばあさまがそんなにお年寄りのはずないわ。」

少し大きくなると、ディアナはふくれっ面をしてそんなことを言うようになった。