隠された鏡の伝説Ⅰ選ばれし者の定め

「わたし、取り越し苦労はしない主義なの。どんなことが起こるかなんて、今考えても、わからないじゃない。問題が起きたときは、起きたときに解決すればいいし、失敗したときは、失敗したときに解決すればいいわ」

ディアナの度胸の据わった、あまりにもすがすがしい物言いに、アレセスは、心を打たれた様子でディアナを見ていたが、やがて、感心した様子で言った。

「君って、本当にすごい人なんだなぁ。武道をやっているぼくなんかよりよっぽど肝がすわっているんだね。なぜ、君が大盗賊を改心させることができたのか、それに、ランスレイ国王が君を連れてくるように言ったのか、わかったような気がするよ」

ディアナは、アレセスが自分をそんな風に言ってくれることはうれしかったけれど、自分がアレセスの言う通りのすごい人間なんかではないと知っていたので、少し居心地が悪かった。

「でも、あなたはなぜ?あなただって、見知らぬ国に突然行って戸惑ったんじゃない?」

ディアナは、自分の話からアレセスの気をそらそうと、そう聞いた。

アレセスは、首を振って言った。

「僕は、あの国からもどると、自分が見てきたことや、ランスレイ国王が僕に話してくれたことをひとつひとつ思い出して考えた。そして、考えれば考えるほど、本の中に町が表れたり、僕が竜になって空高く飛んだり、見知らぬ町で過ごしてきたことは、皆、夢か幻なのではないかという気がしてきた。でも、それにしてはずいぶんとはっきりとした夢だった。僕は、あそこで過ごしている間に嗅いだ空気の匂いや、スープやパンなんかの食べ物の味をはっきりと覚えてた。何より僕には、石畳を歩いた時の、自分の足の裏の感触をはっきり思い出すことができたっていうことが不思議に思えたんだ。だって僕は生まれたときから足に力が入ったという記憶がないし、自分の足に体重をかけて立ち上がったことすらもないんだよ。僕は自分が見たことや聞いたことは夢ではないと思いたかった。でも、それは本当につかみどころのないもので、確信を持つということは出来なかったんだ。なぜなら、証拠になりそうなものが、足の感触をはじめとする僕自身の感覚しかなかったからだ。だけど、それでも、僕はあのユーディアの国は実在すると信じた」