隠された鏡の伝説Ⅰ選ばれし者の定め

「いいえ、なんでもないの。どうぞ、続けて。」

ディアナははっきりと言ったつもりだったが、その声はあえいでいるように聞こえた。

でも、ディアナはアレセスの話をもっと聞いていたかった。

なぜか胸の痛みを伴う、この不思議な話を…

「君、汗ぐっしょりだよ。僕、水を持ってくるね。」

と言って、アレセスは部屋を出て行こうとした。

気がつくと、ディアナの全身は、汗まみれで、背中を大粒の汗が転がり落ちた。

「大丈夫よ、何ともないの。だから、お願い、早く続きを話して!」

押しとどめたディアナの真剣なまなざしと、そのせっぱ詰まったような声を聞いて、ドアのほうに向かって、車椅子を器用にあやつって移動していたアレセスは、戸惑いながら話を続けた。

「ランスレイ国王は、このあざが上腕部にあるのは、名継ぎの騎士の証なのだと言った。そして、ユーディアの国の歴史と、名継ぎの騎士がどのようにして、ユーディアの国を守ってきたのかを僕に語ってくれたんだ。」

アレセスは、ごく簡単に自分が聞いてきたことを話しているのに、アレセスがユーディアという名前を繰り返すごとに、その話の内容とは無関係の、苦しんでいる人々の幻のような映像が、ディアナの頭の中に次々と浮かんでは消えていった。

それはディアナにとって、痛みを伴い、ひどく苦しかった。

ディアナは、冷静になれと、自分に言い聞かせて、深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

「話を聞いていくうちに、ぼくは、このぼくと同じ形のあざを持つこの人の言うことは本当なんだという気がしてきた。ぼくは、ユーディアの国のためにぼくの任務を果たしたいと思った。そして、ぼくはユーディアに留まり、名継ぎの騎士として必要な訓練を受けたんだ。」

ディアナが何も言わないのでアレセスは、ありのままに告白するよ、といった表情で両手を広げた。

「ぼくは、小さいころから、志魂道を習う以外、あまり活動的な生活ができなかった。だから、冒険がしたかったんだよ。」

ディアナは、アレセスが考えていたように、ランスレイ国王の話をすんなり信じてユーディアに留まったということにあきれて、黙っていたのではなかった。