隠された鏡の伝説Ⅰ選ばれし者の定め

ぼくは驚いて、何も言うことができなかった。だって、会ったこともない人が、いきなりぼくの名前を呼んだんだよ!それに、ぼくのことを名継ぎの騎士とか言う、わけの分からないものだっていうし。一体、何の話だ?って思ったよ。そんな僕に、その人は、自分はランスレイ・ザビェと言う名で、この国の国王だって言った。ランスレイ国王は、僕を驚かしてしまったことをわびてから、僕の差し向かいに座って話し始めた。ぼくの本の中に現れたこの国は、ユーディアという名前だという事。そして、この国の歴史、今起こっていること、なぜ、ランスレイ国王は、僕を待っていたのかということ。」

突然、ディアナの、頭の中に、直視に耐えぬほどの悲惨な戦場の様子が写った。

 そこには戦って次々と倒れてゆく大勢の兵士たち、めらめらと燃え盛る炎の海を血みどろで逃げ惑る人々、そして、動かなくなった母とおぼしき女の人に取りすがって泣きじゃくる子供たちの姿が浮かんできた。

その次に、男の人の顔が見えた。

(あぁ、この人がアレセスの言うランスレイ国王なんだわ)

ディアナは、胸が痛くなるような不思議な思いで頭の中に浮かんでくる人の顔を見つめた。

男の人の表情はディアナを、見ているだけで幸せで、嬉しくて泣き出したくなるような気分にさせた。

ディアナの頭の中から、一度見たら忘れられないような顔の男の人が消えると、今度は残忍な顔をした、男の顔が浮かんできた。

(この男が、この国を不幸に陥れているんだわ)

アレセスの説明を受けたわけでもないのに、ディアナの頭の中に、その男がしてきた、思わず目を覆いたくなる程、残酷な行為が、映像のように次々と浮かんでは消えた。

ディアナはその恐ろしさに、身震いした。

(見たくない!どうして、わたしにこんなものを見せるの!)

ディアナは、自分にこの恐ろしい情景を見せ続ける、なんだか分からないものに対して、言いようもなく腹が立った。

そのとき、手に何かが触って、ディアナは飛び上がった。

自分の頭の中に見えていた恐ろしい映像が現実のものになったような気がしたのだ。

 だが、それはジルミサーレだった。ジルミサーレがディアナの手に体を擦り付けてきただけだった。

ジルミサーレは、ディアナをすみれ色の目で見つめて小さな声で鳴いた。