おばあさんは、そんなディアナを見て、

「ディアナ・サラマンダー(火トカゲ)、お前はエネルギーの強い子だ。サラマンダー(火とかげ)の子の様だよ。だが、いいかい?人の取る行動には全て理由(わけ)があるんだ。だから、あの村人たちにも、あの人たちなりの理由がある。だから、人を憎んではいけない。人を憎むことは負(ふ)のエネルギーをためることだ。負(ふ)のエネルギーではなく、正(せい)のエネルギーをためなさい。中傷に耳を傾けることは、それだけで自分の中に負(ふ)のエネルギーをためることになる。それより、人の出す負(ふ)のエネルギーに影響されない強さを身に付けなさい。そして、お前のエネルギーの強さゆえにできる善(ぜん)を成(な)しなさい。」

と、言うのだった。
 
 ディアナは、気性の激しい子供だった。

自分をコントロールすることのできない野生の獣のように、思い通りに行かないことがあると、近くにあるテーブルや椅子に手当たり次第に噛み付き、壁には頭突きを食らわし、「死ね!」と叫んだ。

おばあさんは、そんなディアナに、

「こりゃあ、もう死んでるよ。お前に言われるまでもなくね!」

と、愉快そうに言って笑った。

ディアナの気性のせいで、家の物にはたくさんの歯型がついたけれど、おばあさんの言葉は、ディアナに落ち着きを取り戻させるという力を持っていた。

 
 そんなある日、おばあさんの所に、お客さんが尋ねて来た。

長い髪に、これ又長い長いひげを生やした背の高い立派な紳士で、ここキネビスでは見かけたことのない、襟の大きな、濃い緑と金色に光るコートを着て、自分の背丈よりも長い古ぼけた杖を持っていた。

紳士は、ディアナを見るとその目をじっと覗き込んでから、ディアナの手を取り、自分の膝に座らせた。

そして、長い話をはじめた。ディアナは、紳士の話すことが何一つ解らず、紳士の大きな鼻の穴だけを見つめていた。

ディアナは自分の親指が全部入ってしまいそうに大きな鼻の穴を見て、こんなに大きな鼻の穴がこの世の中にあったのかと、心の底から驚いていたので、紳士の話を何一つ聞いていなかった。