隠された鏡の伝説Ⅰ選ばれし者の定め

部屋の中は暖かくって、テーブルの上には、ホカホカ湯気を立ててる、とろりと金色にかがやくスープと、こんがりと焼けたおいしそうなパンがたっぷり盛られた大きな皿があった。それは凍えていた僕にとって、今まで見たり味わったりした食べ物の中で、見たこともないほどおいしそうなご馳走に見えた。僕は、これは一体誰のもので、自分がどれくらいこの魅力的な食べ物を必要としているか考えてると、誰かに肩をたたかれた。僕は、びっくりして後ろを振り返った。僕の後ろに、背が高くて、真っ黒な髪とひげをたくわえている、上品で威厳に満ちた、でも、少し疲れた表情の男の人が立っていた。僕気配を感じる力は、あの本を置いていった男と出会ってから、どうかしてしまったらしい。このときも、人が入ってきたことに、まったく気がつかなかった。その人は、僕に腰掛けるように言った。僕は、このときどういうわけか、抵抗する意思を失っていたらしい。ぼくは言われるままに席についた。僕の前にはとろりとしたスープが盛り付けられた。そして、パンも、それにたっぷり添えられた。僕は、それを見ると、もう自分の空腹に我慢ができなくなって、物凄い勢いで食べ始めたよ。何回もおかわりしてスープを飲んで、盛り付けられていたパンもあらかたなくなったころ、やっと、僕は自分がこの見知らぬ人の家で、乞食の子の様に、食べ物をあてがわれていたことに気がついた。ぼくは、自分の恥知らずな行動を、悔やんだ。師範が知ったら、どれほど叱責されることだろうと思った。でも、なにより、志魂道を嗜(たしな)んでいる者のくせに、こんな見知らぬ人に与えられる食べ物を口にしてしまったことを、ものすごく後悔したよ。僕の、気配を感じ取る訓練は、一体どうしてしまったのだろう。僕は、当惑しながらそこに座っていた。毒が回って、今にも気分が悪くなってくるのを待っている、死刑の宣告を受けたような気分だったよ。だけど、僕の気分は一向に悪くならなかったんだ。それどころか、体がホカホカとして、かえって元気が出てきたくらいだった。そして、とうとう、あの背の高い黒髪の男の人が立ち上がって、僕のほうに手を差し出した。そして、うれしそうにこう言ったんだ。

『ずっと待っていました。とうとう、来てくれましたね。第十三代名継ぎの騎士、アレセス・シジートッドロー。』