隠された鏡の伝説Ⅰ選ばれし者の定め

ぼくは、どうしたらいいか分からなかったけど、とにかくその場から離れることにした。しばらく行くと、上空で、何か生き物がギャアギャア言うような声が聞こえてきたんだ。空を見ると、真っ赤な顔にとがった口をした数匹の恐ろしい化け物が、誰かを連れ去るところだった。よく見ると、それはさっきぼくにこの町のことを教えてくれたあの男の子だったんだ。ぼくは、その子を助けたくて必死で追いかけたんだけど、やつらは速くてとても追いつけなかった。そいつらの姿が見えなくなって、ぼくは追いかけるのをやめた。」

ジルミサーレが、横たえていた体を起こして伸びをした。アレセスは、少し言葉を切って自分の隣に座ったジルミサーレの喉元をなでた。ジルミサーレは、もっと撫でて、というように、銀色の首を伸ばした。

「気がつくと、日が暮れかかっていて、辺りは薄暗くなってきてた。辺りの温度は昼間とは比べ物にならないくらい冷え込んできて、僕は薄いシャツ一枚で震えながら、途方にくれてしまった。それに、疲れておなかもすいてきた。とっぷりと日が暮れた町を、ファンガスに気をつけながら歩き回っていると、ふと、僕は大きな館の裏口のような所に立っているのに気がついた。僕は、その家を見たことがなかったけれど、なんだか、その家に親しみを感じた。僕の知っている誰かが住んでいるような気がしたんだ。思い切って入っていって、今晩の宿をお願いしようかと考えていると、急に戸が開いて、大きなエプロンをかけた、優しそうなおばさんが顔を出して僕に言ったんだ。
『どうして入って来ないの?ずっと待っていたんですよ。さあ、さあ、早く入って。暖かいスープが冷めてしまうわ。』
おばさんは、僕の腕をぐいっとつかむと、その家の中に僕を引っ張り込んだんだ。そのおばさんの力の強いことといったら…ぼくは全く抵抗も出来ずに、どんどん家の奥のほうに連れて行かれたんだ。家の中は、外から見ていたときに考えていたよりずっと広くて立派だった。長い廊下が続いていて、その廊下が幾重にもわかれて、まるで迷路みたいだった。廊下の両脇にはたくさんの部屋があるようだった。何度も角を曲がり、長いダイニングテーブルがある部屋に連れてこられた。