アレセスは、珍しくて、人からは重宝がられるけれど、今の言葉から比べると、だいぶ厄介な古語を勉強するときの苦労を、手振り身振りを交えて茶目っ気たっぷりに話し出した。

「僕は、勉強を始めたころ、古語のアルファベットがなかなか覚えられなかったんだ。頭にきて、古語の教科書を台所で火にかけてあった古い大なべに放り込んだんだ。そしたら、大なべはとたんに大きな音を立てて部屋中を跳ね回りだして、熱いスープをあたりに撒き散らしながらののしりだしたんだ。こんなに古臭いへっぽこじいさん本を料理するのは真っ平だ!スープがかび臭くなっちまう!とか何とか言ってさ。すると、別のしわがれ声が、このとんちき穴あきなべめ!ふすまのスープしか作ったことがないくせに、生意気なことをぬかすな!と答えた。そして、なべと僕の古語の教科書は取っ組み合いの大喧嘩をはじめたんだ。僕は、びっくりして彼らを止めようとしたけど、熱いスープが飛んでくるので側にも寄れなかった。そのうち、台所の器具たちがそれぞれなべと、古語のチームに分かれて大騒ぎになった。お玉は泡だて器に組み付き、ジャガイモはふきんをぶん殴り、最後には、お互いのチームから、ご老齢の大なべと古語の教科書に代わり、家で一番上等な銀のフォークと我が家に先祖から伝わる名前入りの皿が名乗り出て、一対一の決闘をして片を付けることになった。フォークと皿は激しい戦いを繰り広げたけれど、なかなか決着がつかなくて、フォークは曲がり、皿は欠けてしまった。それで、結局大なべと古語の教科書の戦いは勝負がつかなかったんだけど、僕はその後で、台所中に広がったスープの海と、曲がったフォークと欠けた皿の原因の張本人ということで、母にこっぴどくしかられたというわけさ。」

アレセスは、この話を淡い水色の目をきらきらさせて話した。

この少年がいかに機知に富んでいるか、話をし始めた途端に分かった。

ディアナは、アレセスの巧みな話しぶりに、少し緊張気味だったことも忘れて、涙が出るほど大笑いした。

「でも、どうして銀の上等のフォークとお皿だったのかしら。何か別のものだったらよかったのにね、たとえばジャガイモとにんじんとか……」

ディアナが、目のはじに溜まった涙を手で拭いながら言った。