ディアナは、家に閉じこもりがちな少女だった。

ディアナには、背中に大きなあざがあった。その大きなあざは、いつもディアナを苦しめた。

本当は、近所の女の子たちがしているように、一緒に輪つなぎをしたり、人形の家で遊んだりしたかったのに、自分がそうできないのは、全部、このみにくいあざのせいだと思った。

あざは、皮膚の色がところどころ抜けて、まだらになっているように見えるだけのものだったが、遠くから見ると、それはくちばしのある白い竜が尾をくわえて、円く弧を描いているように見えた。

幼いころ、ディアナが、近所の子供たちと川で泳いでいた時、子供の一人にそのあざをからかわれた。

そこで初めて、ディアナは自分の背中にそれがあるのを知った。

彼女は、それをとてもみにくいと思い、何度も、おばあさんに取ってくれるように泣いて頼んだ。おばあさんは、そのたびにディアナと一緒になって、温かい灰色の大きな目に涙をいっぱい浮かべながら、しかし、決然とこう言うのだった。

「このあざの形は、オーロボスだよ。尾を口でくわえる竜が輪を描いているだろう。途切れないこのオーロボスの輪は、永遠を意味しているんだ。みにくいどころか、とても誉れの高いものなのだよ。時が来れば、これがお前にとってどんなに重要な意味を持っているか解るだろう。」

 
 あざは、ディアナが大きくなるにしたがって、だんだんと濃く、はっきりとしていった。

ディアナは、自分が川に泳ぎに行くたびに、恐ろしげにあざを見て、遠巻きにひそひそ言う村の少女たちや、からかってくる少年たちが大嫌いだった。

村の人々が、孤児のディアナと、ディアナを引き取って育ててくれている優しいおばあさんのことを、うさんくさそうな目で見ては陰口を言っているのを、ディアナはいつも目にしてきた。ディアナは、自分のあざを憎んだ。そして、村人を憎んだ。

村人を見るたびに睨みつけ、そして、自分のこの憎しみでいっぱいになった目から、村人たちを一気に滅ぼす火が出て、自分とおばあさんを苦しめるこの村人を焼き払うことが出来たらいいのに、と強く願った。

すると、ディアナの緑の目の奥に、赤い点が灯り、それが炎のように揺らめいた。そして、ディアナの赤い髪は、普段に増して赤く光り、逆立った髪の先から放電しているように見えた。