少年の名前は、アレセスと言った。

ディアナは、その子の様子が自分の知っている村の子供たちとは随分違っていることに、戸惑いを隠せなかったが、悪い感じはしなかった。

(なぜかしら?)

少年は、車いすに乗っていても、ちっとも不幸そうに見えなかった。

それどころか、少年は希望に満ち溢れ、キラキラと輝いていた。

ディアナは、この少年は脚を治して欲しくて自分を呼んだのではないと、直感的に悟った。

少年は、不思議な目の色をしていた。

一見、紫色がかった淡い水色だったが、見方によっては、深い深い海の底を思わせるウルトラマリンブルーに見えたり、金を表面に流した墨のような漆黒にも見えた。

その目は、今までディアナが出会った誰のものとも違っていて、ディアナはなんだかどぎまぎしてしまった。

ディアナは、手を握ったまま、微笑み返そうとしたが、うまくいかなかった。

なんだか、その不思議な目に吸い込まれそうだった。

しかし、少年はそんなディアナに気がつかないようで、ジルミサーレを見ながら驚いた様子で言った。

「これ君のベリーサ?綺麗だね!こんなベリーサは見た事ないよ。普通のベリーサはみんな茶色の毛並みなのに」

ディアナは、アレセスの話し方が、普通の少年たちと全く変わらないのを聞いて、少しほっとした。

ディアナは、こんな不思議な目の少年は一体どんな問題を持っていて、ディアナに何をしてほしいのだろう、自分には、この少年の要求に答えるに足りる力があるだろうか、と不安に思っていたからである。

アレセスは、ジルミサーレにさわってみたそうだったが、ベリーサという生き物に敬意をはらってか、口に出しては言わなかった。

「名前はなんていうの?」

「ジルミサーレ、銀の巻き毛だから。」

ディアナがそう言うと、アレセスははっとした様子で、

「君、古語が話せるの?僕も古語を勉強したんだよ。お父さんが自分を知るためには、古語の勉強が欠かせないって言ってね。」