少女は、ディアナと二人きりのときだけしか動かなかったので、ディアナは驚いた。

(あなたは動物しか回りにいなければ、動けるの?)

ディアナは、声に出さずに少女に話しかけた。

少女は、ディアナの質問に無関心な様子で、ブローチの中の森を楽しそうに駆け回っていた。

ベリーサは皿まできれいになめてしまうと、ディアナを見上げて、小さな声で鳴いた。

ベリーサはまだお腹がすいているように見えたので、ディアナはサンドウィッチを一つ皿に入れてやった。

ベリーサは、丸々一個のサンドウィッチをおいしそうに食べてしまうと、ディアナの足元に長々と寝そべって、大きな口を開けて満足そうにあくびをした。

ベリーサの口の中はうすいピンク色で、その舌の上には黒い奇妙な模様があった。黒い模様は竜のように見えた。

 ベリーサは、次の日ディアナがやってきた時には、もう小屋の前に寝そべっていて、ディアナが小屋の鍵を開けると、ためらう様子もなく中に入った。

ディアナは、この特別に美しくて、珍しい生き物に、五歳の時から勉強したこの国の古語で、銀色という意味のジルムという言葉と、巻き毛という意味のイサーレという言葉を合わせて、ジルミサーレという名前をつけて飼うことにした。

「お前が来てくれたということは、私の商売はうまくいくってことかしらね。」

 ジルミサーレが来てくれたお陰か、それとも、新聞でディアナがいやし屋をはじめたことが取り上げられたせいか、初日からディアナの小屋の前には人々が並んでいる様子が見られた。

そしてそれは、ディアナを少なからずほっとさせた。

今まで、ディアナをうさんくさそうに見ては、ひそひそやっていた村の人々も、具合の悪いところがあると、コロッと態度を変えてやってきた。

人々は、遠くの村や町からもやってきた。

足がマヒして動かない子供をつれてくる母親や、曲がってしまって伸びないひじを抱えて、毎日の仕事になんぎしている職人。

腰や膝が痛くて、歩くのがつらいお年よりも大勢やってきた。

まじめだった息子が、最近仕事場に寄り付かずばくちに興じていると嘆く父親もやってきたし、病気のために、目が見えなくなった少女を治して欲しいと、ディアナを呼びに来た家族の者と、そこの家まで出向くこともあった。