「だから、お前のの目の前にある試練は、お前にとってどんなに大きなものに見えたとしても、それは乗り越えることの出来る大きさのものなんだ。他の者には乗り越えることが出来ないかもしれないが、お前には出来るんだよ。ひとつひとつ、試練という山を乗り越えていくのさ。そうして、だんだん、強くなる。」

おばあさんは言葉に力を込めて、区切りながらゆっくりと言った。

「そして、お前はいやし屋として人の心をいやす者。忘れてはいけないことが一つある。」

「それはどんなこと?」

「人は、好むと好まざるとにかかわらず、その人の過去に支配されているということだ。」

「人の取る行動には、それなりの理由があるんでしょ?」

ディアナは、幼い頃からおばあさんに繰り返し言われた言葉を言った。

おばあさんは、満足そうに微笑んだ。

「そう、その通りだよ。」

ディアナは、おばあさんの満足そうな顔を見て、嬉しくなった。

しかし、今回はおばあさんの話はここで終わらなかった。

「だけど、それは本人一人ではどうすることもできない場合があるんだ。そこのところを助けるのがお前の仕事なんだよ。お前がいやしたあの盗賊の頭のことを思い出してごらん。」

ディアナはおばあさんのことをじっと見つめた。

言葉の意味が、よくわからなかったのだ。

ディアナには、試練と鍛錬(たんれん)という言葉が、これからの自分自身の人生の上に投げかけられてくる、何か大きな怪物のように感じた。

それは、さっきのわくわくした気分と同時に、心の中にぽっちりと墨を落としたような小さな黒い点が、灰色の怪物として心の中に育っていくようで、ディアナは、そこはかとない不安を感じた。