夕飯が終わると、おばあさんはいつものように暖炉の前でうとうとする代わりに、大層古ぼけた分厚い本を持ち出してきて、大きな音をたててテーブルに置いた。

そして、ディアナの顔を、満足そうに眺めて、

「お前さんがいやし屋の仕事をはじめる時期が来たね。」

と、そんなことはとうに決まっていて、当たり前といった様子で言った。

しかし、そんなことは初耳のディアナは驚いてたずねた。

「いやし屋?いやし屋って?」

「いやし屋は、人の傷ついた部分を直す修理やさ。いやし屋はいい仕事だよ。でも、この仕事はだれにでも出来るってもんじゃない。特別な力のあるものだけができるのさ。」

「おばあさまのような?」

「いいや、わたしにはいやしの力はないよ。ただ、簡単な薬を作ることができるだけさ。いやしの力のあるものは、キネビスでは千年に一人生まれると言われているんだ。私だって、今までに二人しか会ったことがない。」

「それは、どんな人だったの?」

「今から、ずーっとずーっと昔のことさ。一人は私のおばあさんだったよ。そしてもう一人は……」

ここで、おばあさんは言葉を切った。

「もう一人は、だれだったの?」

ディアナは、待ちきれずにおばあさんに尋ねた。

おばあさんは、静かに微笑みながら言った。

「お前さんさ。」

ディアナは狐につままれたような気持ちになった。

「わたしが、千年に一人のいやしの力を持って産まれた者だって、なぜそんなことがわかるの?」

ディアナの言葉を聞くと、おばあさんはテーブルの上の本を開いて、ある箇所を指で押さえながら読み上げた。

「いやしの力を持って生まれた者は、習わなくてもいやしの歌が歌え、その歌を聴くと傷は癒え、病気は治り、傷ついた心は癒やされる。」

ディアナは、立ち上がっておばあさんの読んでいる本を覗き込んだ。