しかし、ディアナが、
「薬がしまってある棚は、いつも鍵がかかっているの。鍵はおばあさまのスカートのポケットにいつも入っていて、他の人には決して触らせてくれないの。」
と言うと、男は背もたれにぐったりと身をもたせかけて、目を閉じた。
盗賊の男にとって、棚の鍵を開けることくらい簡単なことだったが、もうその力が残っていなかったのだ。
男は苦しそうにため息ともうめき声ともつかないような息をつくと、うなだれたような姿勢になって、そのまま動かなくなった。
男の顔色が、さっきより茶色っぽくなっていることに、ディアナは気がついた。
ディアナは、この怪我をした男のために何かしてやりたいと思ったが、一体何をしてよいやら、さっぱり見当もつかなかった。
ディアナはおばあさんの仕事を何一つ教えてもらっていなかった。
怪我をした人や、病気の人が運び込まれる所を見たことはあったが、おばあさんは治療しているところを、決して見せてくれなかった。
おばあさんの仕事を見たいとねだると、決まっておばあさんは曲がった背中をますます曲げて、ディアナの目を覗き込むようにして、微笑みながら右手の人差し指を自分の口に押し当て、ささやくようなやさしい声で、
「お前さんには、他のとっておきが用意されているのさ。」
と、答える。そうしておいてから、左手で古語の教科書を指差すのだった。そして、ディアナは、(おばあさまのケチ)とつぶやいて、いやいやながら、古語の単語の勉強に戻るのだった。
(それみたことか!)
ディアナは、腹立たしそうに唇をかんだ。
(おばあさまが一度でも、私に治療しているところを見せていてくれていたら、私は今この人に何かしてあげられるのに)
ディアナは、男の額に汗が噴出しているのに気がついた。
(こうはしていられないわ。何かしなくちゃ!何か出来ることはないの?)
ディアナは頭の中でぐるぐると考えた。
でも、何か役に立ちそうな事はなにも思い浮かばない。ディアナがそんなことをしているうちに、男の荒い息の中にうめき声がはっきりと聞こえるようになってきた。
「薬がしまってある棚は、いつも鍵がかかっているの。鍵はおばあさまのスカートのポケットにいつも入っていて、他の人には決して触らせてくれないの。」
と言うと、男は背もたれにぐったりと身をもたせかけて、目を閉じた。
盗賊の男にとって、棚の鍵を開けることくらい簡単なことだったが、もうその力が残っていなかったのだ。
男は苦しそうにため息ともうめき声ともつかないような息をつくと、うなだれたような姿勢になって、そのまま動かなくなった。
男の顔色が、さっきより茶色っぽくなっていることに、ディアナは気がついた。
ディアナは、この怪我をした男のために何かしてやりたいと思ったが、一体何をしてよいやら、さっぱり見当もつかなかった。
ディアナはおばあさんの仕事を何一つ教えてもらっていなかった。
怪我をした人や、病気の人が運び込まれる所を見たことはあったが、おばあさんは治療しているところを、決して見せてくれなかった。
おばあさんの仕事を見たいとねだると、決まっておばあさんは曲がった背中をますます曲げて、ディアナの目を覗き込むようにして、微笑みながら右手の人差し指を自分の口に押し当て、ささやくようなやさしい声で、
「お前さんには、他のとっておきが用意されているのさ。」
と、答える。そうしておいてから、左手で古語の教科書を指差すのだった。そして、ディアナは、(おばあさまのケチ)とつぶやいて、いやいやながら、古語の単語の勉強に戻るのだった。
(それみたことか!)
ディアナは、腹立たしそうに唇をかんだ。
(おばあさまが一度でも、私に治療しているところを見せていてくれていたら、私は今この人に何かしてあげられるのに)
ディアナは、男の額に汗が噴出しているのに気がついた。
(こうはしていられないわ。何かしなくちゃ!何か出来ることはないの?)
ディアナは頭の中でぐるぐると考えた。
でも、何か役に立ちそうな事はなにも思い浮かばない。ディアナがそんなことをしているうちに、男の荒い息の中にうめき声がはっきりと聞こえるようになってきた。
