俺が中学2年生の時、1人で道を歩いていると、小学生の男の子がわざとらしくぶつかってきた。勢いの余り、俺はよろめいて地面に倒れる。すぐに体を起こすと、少年に近寄った。
「…君、怪我は無い?」
俺は、ぶつかって来た少年に声をかけた。
「いってぇな!お前、何ぶつかって来てんだ!」
少年がいきなり怒りだし、俺は戸惑いながら少年を見つめた。
「え?君がぶつかって来たんだよね…?」
「そっちがぶつかって来たんだろ!怪我をしたじゃねぇか…どうしてくれんだよ」
周りの人から見れば、少年はただ怒っているように見えるかもしれないが、その瞳の奥に恐怖と辛さが隠れていることに俺は気づいた。
…少しの間、この少年を観察することにしよう。
「…俺に何をして欲しいわけ?」
「そんなの決まってんだろ!?」
「そのカバンの中身をくれたら、許してあげても良いよ」
少年の後ろから女性が現れた。その時、少年の表情が一瞬だけ動いた。
……彼、さっき辛そうな顔をした…?
「…あなたは誰ですか?」
「見たら分かるでしょ!?この子の親よ?私、見てたよ。あなた、我が子にぶつかったでしょ!早く弁償しなさいよ」
「…向こうからぶつかって来たんですよ…?」
俺がそう言った時、少年が母親の顔色や表情を伺うような動作を見せた。見覚えのある動作にハッと息を飲む。
…俺が保育園児の時、美影と英太も少年と同じような動作をしていたな。
あれが幼い頃の俺にとって印象的だったのか(なぜ印象に残ったのかは不明だが)、たまにふと思い出す時がある。



