目の前でぽとり、いつもよりもっと焦げた茶色い髪から雫が落ちた。
「すごい恐怖心が伝わってきて」
そのときの情景が脳裏に浮かぶ。
諦めたふりをして、ほんとうは少しの期待を胸に抱いて教壇に立っていた。
『なんかクールだね』
『いや、クールっていうか…さ』
『…不機嫌じゃね?』
でもやっぱりどこも同じで
「どんなふうに笑うんだろう」
岸はいいものを思い浮かべるみたいに優しい声で言った。
「心から笑えるそのときまで見守っていよう」
「俺が彼女の隣の席だから」
「って…そう思いました」
たまたま席が隣だった、だけなのに。
『よろしくねーー』
教壇から一番遠い席。
背が高いからよく目立つ。
でもそれより、だれからも愛されるような無邪気な笑顔が眩しくて
やっと消せるはずだった心の灯が、眩しくて熱い温もりで包み込まれた。
消えそうにたるたび、何度も。


