名もなき箱庭

 




 そこはかとない人の心の

 なんて移ろいやすいこと。




「なにか、私に、出来ることある?」

「…ううん。俺、祐穂のそばで笑ってる金雀枝のことが好きだから」




 恭しくて反吐が出る。











「祐穂?」

 ホームルームが終わり、そそくさと学生鞄を持って教室を出て行こうとしたら、後ろから呼び止められた。ち、と心の中で舌打ちをして、振り返る。

「ひっど! 祐穂いま仁乃のこと置いて帰ろーとしたー! 恋人なのにっ! 愛しのマイレディなのにー!」

「仁乃うるさい。今日、ちょっと蒼真に辞書借りたからそれ返しに行かなきゃいけないの。部活始まっちゃったら弓道部厳しくて途中退出出来ないし。だから先、帰ってていいよ」

「え? やだよ。あたしも一緒行く」

「…え、なんで?」

「もー水臭いなあ仁乃と祐穂の仲じゃ〜ん。今更なに遠慮しちゃって。ニコチンニコチン」

 それはニコイチだろ。

 心の中でツッコむと、目の前であれ? なんか響き違? とかクエスチョンマークを飛ばす仁乃。呆れて踵を返す私に、ばたばた、と仁乃は支度を始める。

「やー! 待って待ってゆほち! あたしも一緒行くー!」

「来なくていいよ。仁乃トロいもん」

「トロくない! もう準備できたっ!」

「…仁乃あのね、」

「ゆぅううほおおおぉ。おま、あたしというフレンズを捨て置いてソーマといいことすんだろー…かたじけなーい…じゃなくて見過ごせなーい…嫌だーゆほー」

 背中から雁字搦めにしてくる仁乃を跳ね除けて、踏んづけてやりたいとすら思った。


(でもそれが出来ないのは、)