名もなき箱庭

 


 全部、仁乃のせいだ。







 仁乃が嫌い。仁乃の全部が嫌い。私の欲しいもの奪って。横取りして。地位も名誉も信頼も全部全部持ってって万人に愛されて笑ってる仁乃が嫌い。仁乃が嫌いな自分が嫌い。だってあなたに出会いさえしなければ誰かを疎ましく恨めしく嫉むこんな醜い私にならなかった。
 私がこんな醜いって気づかずに済んだ。気付かないでいれたのに。


 全部全部仁乃のせい。



「祐穂」


 西日射す公園のブランコで一人で涙をぬぐっていたら、世界で一番耳にしたくない声がした。

 もう一度名前を呼ばれて、顔を上げる。案の定西日を浴びてオレンジに髪を染め上げた仁乃が立っていて、私より傷ついたみたいな顔をした。ほらね偽善者。お前のそういうところが嫌いなんだよ。

 ひとの痛みがわかる人間なんてこの世界にどれだけいるか。辛い誰かを見て私も辛いなんて絵空事。戯れ事、法螺、嘘っぱち。ほんとは醜いくせにその骨の髄まで染み込んだ偽善振り払ってみろよそんで馬鹿馬鹿しいってあざ嗤え。



 眉間に皺を寄せたら仁乃の指先が私の涙を拭う。


「祐穂、どしたの」

「…なんでもない」

「でも、泣いてる」

「辛いから」

「どこか痛いの」

「そうだね」

「あたし、祐穂が泣いてるのが世界で一番つらい。
 仁乃なんでもする。だからお願い泣き止んで」

「なんでも?」

「うん」


 止め処なく溢れる涙を拭う仁乃が、小さく小首を傾ける。
 私はその時確信した。そうかこの手があったんだ。
















「じゃあ死んでよ」