その日、恐れていた事態は起こってしまった。



「金雀枝、いいよな」



 緩急のない声はいつ如何なる時も冷静そのものなのに、その日蒼真の声は熱を持っていた。

 白い肌に目尻のほくろ。薄い唇に黒髪から覗く長いまつ毛。そのどれもは物心ついた時から私か、もしくは彼の家族だけのものだったというのに、いま、守られた箱庭から飛び立とうとしている。


 ほんのり明るんだ頰が上気してるのも、その横顔が振り向かないから理由は嫌でもわかる。


「好きなの」


 心して問うてみた。

 そこに、返ってきたのは、私の大好きなひとが、私じゃない誰かに恋した熱っぽい眼差しだけ。