そんな私とピアノをクスクスと笑う声の持ち主は窓枠の上で腕を組んで置いている。



「ごめん、驚かすつもりはなかったんだけど。」



今の方がびっくりしてる。
ずっと見てるだけだった先輩が。
声を聞くことも無いと思ってた彼がいつもと違う距離にいて、声を掛けてくれている。



「ねぇ、こっち来てよ。
変なことしようとかそういうんじゃないから。」



おいでと手招きをする先輩に誘われるがまま私はピアノから離れて、先輩の腕の隣に手を置いて立つ。
少し近いような気もするけれど、先輩が満足そうに笑うから気にしない。



「ん、ありがと。
2年だったんだ、名前は?
俺は、糸居綾仁(イトイ アヤト)。」



『私は、古河那央(コガ ナオ)です。』



話したいと思ってたはずなのに、いざこういう状況になるとなんにも話せない。



悔しくてそれを紛らわすようにセーターの袖を引っ張ってぎゅっと握った。