あなたのこと、好きだけど。


次の時間は国語。


今はちょうど短歌の勉強をしている。


担当の先生は…


「授業始めるぞー、席つけー」


東先生だ。


運が良いのか悪いのか。そんなの、どちらでも構わないんだけれど。


「きりーつ、れーい」
「お願いしまーす」


日直の号令が終わると、東先生は「はーい、お願いします。」と一礼して黒板を書き始めた。


いつもの授業なら退屈なはずなのだけれど、東先生の授業は何故か退屈ではない。


なぜかと言うと…


「この女は、男が浮気しに行くの知ってて、

「うん、行ってらっしゃい…♡」

つって送り出したんだよ!

「嫌だ、行かないで…!」

なんて素振りも見せない女に対して男はこう考えるわけ。

「もしかして、こいつも浮気してる!?けしからん!!」

つってな〜、自分も浮気してるくせして妻の浮気は許せねぇっつう最低な男なわけ。

んーで男は浮気相手の所に行くふりをして庭の植木の切り込みの中に隠れて女を監視し始めるわけだ。現代だったら完璧なストーカーだなー。

で男を見送った後、女はめちゃくちゃ良い着物に着替えて、綺麗な化粧をし始めたわけだ。

男はな、「これから男が来るからめかしこんでいるに違いない!」

って思い込んでいたわけよ。でもなぁ、それは男の勘違いで、女は物思いに耽りながら外を眺めて、こう歌を歌ったんだ。

【風吹けば 沖つ白波 竜田山 山夜半には君が ひとり超ゆらむ。】

これはどーゆー意味かっつーとな。

風が吹いたら沖の白波が高く立ちます。そのたつという名の竜田山をこの夜中に私の夫がひとりで超えているのでしょうか。

ていう意味になりうるわけだ。つまり、女は男を心配していたんだよ。

あぁ、今頃、あの山を超えているのですね。暗いだろうに、大丈夫かしら。

浮気していることを知っても尚、男を嫌いになれなくて、ほかの女のところに行く男を心配してしまう。

男は「あぁ、私の妻はなんていい女なんだ!」って言って、ほかの女のところにも行かなくなったってのがこの話だ。」


東先生は「筒井筒」のお話を現代風にアレンジして分かりやすいように説明してくれる。


演劇付きで。


女の役をやる時の気持ち悪さは必ず笑いが起きるほど。


東先生が担当しているクラスの国語の点数はかなり良い。


私も、国語だけは割と得意だ。


分かりやすいし、眠くならないし。


「んーじゃあ、最初から最後まで読むからな。わからん事があったらフリガナしとけ〜」


東先生は音読をしながら教室をゆっくり周った。


読めない字は特になかった為、東先生の声に集中した。


ちょっと低めの声。とても落ち着く。


割かし好きな声だ。


そんなこんなしているうちに5時間目の授業はあっという間に終わり、東先生も出ていったしまった。


10分休憩の間、彩が私に話しかけてきた。


「東っちからCKの香水の匂いがした。あれ、あんたの香水でしょ。」


彩はめちゃくちゃにやにやしながら私に問いかけてきた。


確信があるのだろう。


なんて鋭い女なのだ。


「東の香水と一緒なんじゃないの?」

「いーや、いつもあんな匂いしないよ。それにあんた吸ってきた後香水の匂いしなかったし。東っちにあげたんじゃないの?あの香水。」


彩には、敵わないらしい。


「あーそーですよー、会いましたよ、東と。」


もうどうでも良くなり、私は彩に全てを打ち明けた。


まぁ、そんなに重要な話してないんだけどさ。