「おい、なんか言えよ。」

1人の男子が肩をついてきた。
私は力の強さによろけて、
倒れそうになる。

内心パニックになっていると、
ふわりと抱きとめられた。

「奏君......。」

いつもは優しそうな瞳が、
怒りに燃えている。
彼は口を開くと、いつもより
1オクターヴくらい低い声で
クラスに呼び掛けた。

「みんな、こんなことして
楽しむなんてありえない。
馬鹿じゃん。結乃ちゃんを
傷つけるやつは僕が許さない。」

きっぱりと言いきった奏君は、
私に微笑みかけて小さな声で
ささやいた。

「僕、先生呼んでくるから。」

そう言うなり、回れ右をして
全力疾走でかけていく。
私は、ただひたすら黙っていた。

「なんか言えよ、口無し!」

誰かの言葉が引き金になって、
たちまちみんなが口無しと声を
そろえて言い出した。