涙を拭って顔をあげた私に
差し出されたのはふわりと
甘い香りのする丸い形の
バニラクッキーだった。

彼はそれを器用に真っ二つ
にして、半分を私にくれる。

「これ、美味しいよ。」

笑顔で続ける彼につられて
私はクッキーに手を伸ばした。

「あ、ありがとう。」

おそるおそる食べた。
クッキーは口にいれた瞬間
すぅっと溶けて、舌に甘い
香りが広がる。

おやつなんて食べたの、
すごく久しぶりかもしれない。

「美味しい......。」

呟くと、彼は目を輝かせた。

「そう言ってくれて嬉しいな!
君はなんていう名前なの?」

尋ねられて、もぐもぐと
口を動かしながら答えた。

「結乃。」

「ゆいのちゃんって言うんだ。
僕は奏。かなって呼んでよ。」

「かな君...。」

目の前の男の子が自分に対して
普通に接してくれるのが本当に
嬉しかった。