見上げる空は、ただ蒼く

ただ、俺の部屋からラジオを
持ち出すことは考えてみれば
出来ないというわけでもない。

透さんは海外出張でドイツにいるし
俺はフランスで、紗綾さんは朝早くから
仕事に出掛けて帰ってくるのは夜だから、

１番長くあの家に居るのは結乃だけど
結乃が学校に出掛けてから帰ってくるまでの
時間帯は家に誰もいない。

つまり、なんとかして家に忍び込めば
ラジオを盗み出すことは簡単だ。

問題は、どう忍び込んだか。

家自体の防犯対策が厳重だといえる
訳ではないけれど、この家に忍び込む
ためには１つ大きな難関を
くぐり抜けなければいけない。

それは、いつも家の前を箒で掃いている
うちの向かいの家に住む金森さんだ。

金森さんは俺が神影家に引き取られる
前から向かいの家で暮らしていて、
仕事で夫婦ともども家を空けることが多い
神影さんの代わりに泥棒が入ったり
していないか見張ってくれている
とても親切な人だ。

金森さんはいつも家の前を
箒で掃いている効果もあるのか目が良くて
そのうえ宙を舞う塵１つでも見逃さない
動体視力を持ち合わせている。

そんな金森さんの目をくぐり抜けて
盗みを働くなんてほぼ不可能。

まぁ、とにかく今回は実際にその現象が
起こってしまっていることが問題だ。