驚いた。

あまりにも酷い家の中の有り様に
俺は一瞬、足を止めそうになる。

普通ではありえない量のお酒の瓶。
あちこちに割れたワインボトルや、
ガラスの破片が散らばっている。

俺はちっぽけな勇気を振り絞って
結乃の方に駆け寄ろうとした。

「こっちに来るなぁぁぁあっ!」

結乃の母親が叫んでいる。
その顔は怒りや苦悩で歪んでいた。

どうしてこの人は。
襲い掛かってくる攻撃を避けながら
頭の中を疑問が駆け巡る。

自分の娘を虐待するんだろう。
俺は母さんに愛されて育ってきた。
欲しいものが貰えるとか、
なんでも望みを叶えてもらえるとか、
そういうのとは違うけど。

俺にいろいろなことを教えてくれて、
いつも『愛してるよ』って
寝る前には抱き締めてくれた。

こうして結乃に出会う前までは、
どこの家も同じだと思っていたけれど。

世の中にはいろいろな人が居る。
小学生ながらにそれを悟ってしまった。