それからもいろいろなことがあった。
本当に、数えきれないほど。

俺は結乃が母親から虐待を受けていて
父親は酒癖の悪い母親に愛想を尽かして
家を出ていったということを知り、
結乃が寂しくならないように
ちょくちょく彼女の家を訪れていた。

あの日も確か、特別な約束はなくて
ただ話したくて、顔が見たくて、そんな
何気ないしょうもない理由で結乃の家を
訪ねていったんだと思う。

インターホンを鳴らして待っていると
応答したのは結乃ではなく母親だった。

『どちらさまですか。』

どこか苛立ちを含んだ声。
その声に子供ながら怪しいと思った。

『結乃ちゃんの友達の奏なんですけど、
結乃ちゃんは家にいますか。』

俺が尋ねると、相手はあり得ないことに
適当に笑ってごまかそうとした。

『ごめんなさいね。結乃は
今はまだ帰ってきて......』

そのとき、母親の声に被さるようにして
聞こえてきた大好きな君の苦しそうな声。
恐怖に怯えて、震えている声だ。

『奏くん、助けて......!』

助けないなんていう選択肢はない。
ただ大好きな友達を助けたかっただけ。

『失礼します!』

俺は結乃の家に足を踏み入れた。