結乃に、会いに行かねぇと。
頭のなかにはそれしか浮かばなかった。

今すぐにでも、君に会いたい。
会わなきゃいけないんだ。

だけど。

ザッザッザッ。

後ろから近づいてくる足音に、
立ち上がって裏路地に逃げ込んだ。

俺は今、父さんに追われてる。
いや、正しく表現しようと思うなら
義理の父さんって言うべきか。

ばあちゃんの手術が無事に終わったあと、
すぐに帰るつもりだった俺に向かって
父さんがありえないことを言ってきた。

『こんなところまでわざわざ来て俺が
素直に帰るとでも思ったのか。
お前、知ってるか?日本の若い男って
フランスの婦人にモテるらしい。

お前も顔だけは良いんだから
金持ってそうな婦人に近づいて媚売って
金稼いでこい、いいな。』

意味が分かんねぇよ。

金稼いでこい?父親の癖にふざけんな。

母さんが死んだときにあっさりと
俺の親権を手放した父さん。

母さんが生きていた頃からかなりの
ギャンブル狂でアイツの財布には
俺を養う金なんかこれっぽっちもなかった。

俺は神影さんに引き取られたけど、
そのあとも父さんのギャンブル好きは
全く変わってないって訳か。

『俺はそんな汚いことしねぇから。』

そう言って逃げた。