その頃に奏は、奏の父さんが親権を
放棄したことがきっかけで紗綾さんに
引き取られて暮らすようになった。

そして忘れもしない運命の
あの日に、私たちは出会う。

映像に映し出される自分自身を
見るのは少し不思議な気分だった。

それから夏乃香さんが
飲酒による轢き逃げ事件を起こす。

そこまでを流すと、突然スクリーンの
映像が早巻きになった。

凄まじいスピードで映像が流れていく。

そして。

中2になった奏が1人で私と夏乃香さんが
かつて暮らしていたお化け屋敷と呼ばれる
我が家に意を決した様子で入っていく、
そんな場面で映像が元のスピードに戻った。

奏は家に入るとすぐに立ち止まって、
あからさまに顔をしかめた。

顔の前で手をぱたぱたと振っている。

きっと慣れていない奏にとっては
部屋中に充満するシェリー酒や
ビールの臭いが混じりあったあの家の
独特のアルコール臭に驚いたに違いない。

奏はしばらく顔をしかめていたけれど、
やがて霧吹きで床に何かを吹き掛けた。

吹き掛けたところが発光した時点で気付く。

奏は私の住んでいた家で、
ルミノール反応を試しているんだ。

『虐待の証拠を掴めれば、いざというとき
結乃はアイツを訴えることが出来るから。』

奏が前にそう言っていたのを思い出した。

奏は、私のためにわざわざ虐待の証拠を
探しに行ってくれていたんだ。