病室に入ると、結乃は無防備に
すやすやと寝息をたてていた。

自分から線路に飛び込むなんて、
ほんっとに馬鹿みたい。

あのとき、助かったくせに。
私のおかげで命拾いしたくせに。
その命を捨ててどうすんのよ。

結乃って本当に意味がわかんない。
こんな奴、大っ嫌いだ。

私は無表情のまま結乃の腕に
手をのばして突き刺さっている点滴を
躊躇なく引き抜く。

そこから、鮮血が流れた。
赤い赤い血がシーツに染み付く。

その色は、かつての交通事故の
記憶を嫌でも思い起こさせた。

『りーんーちゃんっ。』

あどけないくりくりの黒い瞳。

『いっしょに遊ぼう?』

可愛く両サイドで編み込んだ髪。

『りんちゃんは、わたしのいちばんの
おともだちなんだもんねー!』

「.........嘘つき。」

そんなこと、思ってなかった癖に。
結乃を庇って車に轢かれた私。
次に2人が会った時にはもう、結乃の
記憶の中に私の存在はなかった。

私は、結乃の失われた記憶。
忘れられたなんて信じたくなかった。

『......あなたはだれなの?』

『わたし、りんだよ。ゆいのちゃん、
おぼえてないの?ねぇ、なんで...っ。』

『やめて。こわいよ。』

私の方を見る結乃の瞳には、
静かな恐怖が宿っていたんだ。