長いようで短い気を失うまでの時間。
たくさんの場面が頭をかけめぐる。

私に笑いかけるお母さん。
私に手を上げたときの呆然とした顔。
酒が入ったときの狂った言動。

小学校の頃から責任感が強くて、
よく委員長をしていた葉音。
奏の代わりになってくれたこと。
机を持ち上げて迫ってきたときの
嫉妬や憎しみで歪んだ顔。

まだまだちっちゃくて、濃紺の
ランドセルを背負ったやせっぽちの奏。
うちの家の前で話す男子の声。
口に広がるバニラの風味。
口無しの道化師が流した一筋の涙。
ジュリエットと短剣。

1つ1つの想い出が駆け巡って
私はぎゅっと目を閉じた。
この世界からきっと私は、
あとかたもなく消え去るの。

ほっとして意識を手放した。

沈んでいく、沈んでいく。

深い、誰にも見つからないような
海底に眠ってしまえればいいのに。