目を開けると、いつのまにか
また太陽が昇っていくところだった。

腕時計を見ると、まだ朝だ。

車窓からの景色は都会のネオンの街並みから
美しい田園風景へと変わりつつある。

見回すと私だけしか乗っていなくて
柔らかな緑のグラデーションに包まれた
景色を独り占めしているような気分になった。

私が向かっているのは、盥ヶ峰駅という
古くてちっぽけな木造の駅。

漢字が難しすぎると言われることもある
けれど、こう書いて『たらいがみね』と
読む、少し特殊な名前の駅だ。

そこは、お母さんが生まれ育った町。

今まで行ったことがなかったし、
どうせ死ぬのなら自分を苦しめる
お母さんが生まれた土地で
死んでやりたいと馬鹿みたいに思った。

奏がフランスに行ってから、
今日でちょうど1ヶ月が経つ。

奏はきっと私のことが嫌いだったんだ。
だからあんなにも大切なことを
私に教えてくれなかったんだ。

言って欲しかった。
どうせならちゃんと打ち明けてくれた方が
私にとっては嬉しかった。

『次は、盥ヶ峰~、盥ヶ峰~。終点です。
右側のドアが開きます、ご注意ください。』

車掌さんの穏やかなアナウンス。
車内にはどこまでも透き通っていて
静けさを保った時間が流れていく。

私はラジオとスクールバッグを持ち、
ぼんやりと窓の外を眺めた。